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— ライブラリー

books & movies

感性に触れる
本と映画。

在籍女性とスタッフたちの愛読書、映画などをご紹介いたします。
作品の空気や余韻を、静かな読み物としてまとめました。

ハンス・ベルメール / ポーランド出身の画家、グラフィックデザイナー、写真家、人形作家

book / 01

ハンス・ベルメール / ポーランド出身の画家、グラフィックデザイナー、写真家、人形作家

 美しい肉が、ただそこにある。 肉は柔らかさや固さ、へこみや膨らみを伴って、徐々に魂を宿してゆく。時に視線や温度、感情を与えられ、時に衣類や家具などの「意味」が加えられ、あるいは取り除かれ、肉はついに物語を得る。だからベルメールの作品から、我々は生と死をイメージする。  私がベルメールを愛してやまないのは、生と死の、心と肉体の、絶対的な同一性と矛盾を、痛みを伴って感じさせてくれるからだ。 身体とはただ肉体であり、魂は別の場所にあること。 肉体は魂の容れ物に過ぎないこと。 心と身体はひとつであること。 肉体こそが、存在を証明し、表現する外界との境界線であること。

オートバイ / A.ピエール・ド・マンディアルグ著 / 生田耕作訳 / 白水uブックス

book / 02

オートバイ / A.ピエール・ド・マンディアルグ著 / 生田耕作訳 / 白水uブックス

 朝早くに夫の眠るベッドから裸で滑り出し、小さな下着1つと黒革のレーサー服だけを身につけ、国境の向こうにいる恋人の元へと飛び出すレベッカ。瑞々しくしなやかな弾性を備えた彼女は、絶対的な君臨者からの完全な支配を求め、贈られた雄々しいバイクを操り、焦がれる気持ちを高ぶらせながら疾走する。  道すがら彼女が思い描くイメージの連鎖は、男性目線の、五感すべてを刺激する描写に彩られ、見たことのない硬質な情景をもデジャヴのように想起させる。そして、鋼のような恋人に屈服する心地よさを求める気持ちは、いつもおあずけにあったようにはぐらかされ、渇えた者の焦燥感にすり替えられてしまう。  かつて恋人に縛られ、薔薇の束で打たれ、無数の棘で体を傷つけられた彼女の目に一瞬映った、彼女よりもっと深く傷を負った恋人の手のイメージが、刹那的な激しさの象徴として胸に残る。きっとどんな終末をも、眉一つ動かさずに彼女たちは受け入れるのだろう。

刺青・秘密【少年】 / 痴人の愛 / 谷崎 潤一郎 著 / 新潮文庫

book / 03

刺青・秘密【少年】 / 痴人の愛 / 谷崎 潤一郎 著 / 新潮文庫

 谷崎の作品に初めて触れたのは、学生の頃教材で読んだ「陰影礼賛」だった。  仄暗い行灯の明かりの中でうっすらとぬめり光る漆器の美しさ。そこに光と影が作り出す幽玄のエロティシズムがあることを知ったのは随分後になってからのことだが、少なくとも谷崎に出会わなければ、当時の私は日本語がこれほど美しい言語だと知る由もなかっただろうと思う。言葉の美しさに心奪われ、さらに谷崎を読み進めた私の遍歴は、その後「刺青」「少年」「痴人の愛」と続いてゆく。  かつて支配した者が結果支配されるという谷崎作品の構図は、表裏一体の真理と力を得た美しき者の絶対性とを私に教えた。  入れ代わり立ち代わりし続ける、支配者と服従者の関係性。男と女も然り、SとMも然り。身近なところでは飼っている猫のことを思う。「飼っている」にも関わらず、彼女たちのために奴隷同然にかしずいているのはこの私なのだから。

昼顔 / ケッセル著 / 堀口大學訳 / 新潮文庫

book / 04

昼顔 / ケッセル著 / 堀口大學訳 / 新潮文庫

 眩しいほど健康で健全な、上流階級の若い女性の秘密の名前、昼顔。  明るくかすみ一つない生活、非の打ち所のない愛する夫、一見輝かしい人生を謳歌しているような彼女は、あらがえない強い欲望に引きずられ、娼館でこの名前で呼ばれるようになります。労働者階級の粗野な男性相手の、自分の存在を無視される野生的な行為にしか感じられない、倒錯した快楽。得難いがために、彼女はそれに強烈に支配され、破滅へと向かって加速度的に大胆になり、賢明さを失い、滑り落ちて行く…。  決して明るい気持ちで読める作品ではありませんが、文中にちりばめられた胸をえぐる鋭い表現すら、序々に快感へと変わっていきます。それは、心の奥にある破滅への密かな憧れを刺激するからでしょうか。彼女が最後に背負うことになる十字架は、きっと恐ろしく重く、痛みを伴うものだけれど、決定的に変わった夫との関係は、より強く彼女の心を満たし続けるのかもしれません。

香水―ある人殺しの物語 / パトリック・ジュースキント著 / 池内 紀訳 / 文春文庫

book / 05

香水―ある人殺しの物語 / パトリック・ジュースキント著 / 池内 紀訳 / 文春文庫

 間接的でありながら、視覚や聴覚よりもずっと強烈に記憶を呼び起こす、抗いがたい感覚。それは嗅覚だ。幼い頃の思い出、特別な場所の空気、恋人の声の温度や吐息の湿度さえ、「匂い」は本人の意思を問わず、過去の現実をより色鮮やかに蘇らせる。  しかし、本書から立ち昇る匂いはそんな甘いものではない。劣悪な衛生状態にあった18世紀パリを舞台に、文字通り筆舌に尽くしがたい(いや筆舌に尽くしているのが本書の凄いところなのだが)ほどの悪臭がほとんど全てのページ、行間に至るまで充満している。 魚や家畜の臓物の匂い、それらをセーヌ川に投げ込む人々の体臭。口臭、死 臭、腐った食べ物の匂い。物語は、その中にあって一人の少女が放つ、至高の香りに魅せられた男の狂気の運命を綴ってゆく。あらゆる匂いを自在に操れたなら、人はどこまで人を支配することが出来るのだろうか。私は雨が降る前の匂いが好きだ。湿気を含んだアスファルトに、ほんの少し草いきれが混ざったような、生温かい匂い。  あなたが魅せられる匂いは、何ですか?

橋の上の娘 / 主演ヴァネッサ・パラディ / ダニエル・オートゥイユ / 監督パトリス・ルコント

movie / 01

橋の上の娘 / 主演ヴァネッサ・パラディ / ダニエル・オートゥイユ / 監督パトリス・ルコント

 「ねえお願い。アレをして。今すぐに。」 少女が懇願するのは、セックスでもドラッグでもない。壁を背に両手を広げ恍惚の表情を浮かべる少女に、男はナイフを投げる。少女の両足の間に、あるいは青白い首をかすめ、鈍い振動と共に、ナイフは重く突き刺さる。  中年のナイフ投げと、生きる意味を見いだせない美しい少女。二人は身体を合わせることも、接吻を交わすことすらない。しかし男がナイフを手にし、少女が的となる時、流れる空気は一変し見る者全ての心を捉えて離さない。観客は驚嘆と称賛の声を上げ、割れんばかりの拍手の中、ショーは終わりを告げる。命を輝かせる術を持たない少女に男は目覚めを与え、もう死んでしまった男に少女は再生を与えたのだ。そして少女の若さ故に、歯車は狂い始める。互いが唯一無二であることに気付くのに、何故我々はこれほどまで時間を欲しがるのだろう。

毛皮のエロス / 主演ニコール・キッドマン / ロバート・ダウニーJr / 監督スティーヴン・シャインバーグ

movie / 02

毛皮のエロス / 主演ニコール・キッドマン / ロバート・ダウニーJr / 監督スティーヴン・シャインバーグ

 ダイアン・アーバスは、1940年~60年代に活躍しポートレイトの概念を変えたといわれる写真家である。  彼女のファン、もしくは彼女が撮り続けた世界観に共感を覚える方でなければ、本作に特筆すべき点はないかも知れない。  半生を描くのでなく、あくまでもイメージとして綴られる物語は矛盾が多く、展開にも無理がある。  しかし、詩の断片の連なりのような映像世界は、理屈を通り越して十分に魅力的だ。 フリークスや性倒錯者を主な被写体とするアーバスが、レンズの向こうに見ていたものは何だったのだろう。  彼女は「人間の殻を打ち破る最も確実な方法は性行為だ」と語ったという。言葉より身体がものいう時は、日常でも数多くある。身体とは即ち、剥き出しの心だから。  前回と同じスティーヴン・シャインバーグ監督作品の比較としても楽しめる。

アイズ・ワイド・シャット / 主演トム・クルーズ / ニコール・キッドマン / 監督スタンリー・キューブリック

movie / 03

アイズ・ワイド・シャット / 主演トム・クルーズ / ニコール・キッドマン / 監督スタンリー・キューブリック

 キューブリックの遺作にして、最高傑作と言われた作品。 トム・クルーズとニコール・キッドマン元夫婦の共演も話題になった。  10年ほど前、はじめてこの作品を観た時に、私の中にある性的願望がうずいた。(ように感じた。)最近になって、またあの興奮を思い出したくなり、改めて鑑賞した。  興味本位で奇妙な仮面パティーに潜入するトム・クルーズ演じる医師ハフォード。 そこで目にしたものは、仮面を身につけた人々が、性的欲望をむき出しにする姿だった。現実と非現実の境目を見失いかけるハフォード。非日常の閉ざされた空間において、あらわになる性欲。  描写自体は、それほどエロティックとは思わないが、じわじわと主人公を追いつめていく心理描写はさすが!だと思う。  10年前にうずいたもの。それは私の中の羞恥心と、それを刺激したいと思う強い願望だったのだと、今はわかる。

セクレタリー / 主演マギー・ギレンホール / ジェームズ・スペイダー / 監督スティーヴン・シャインバーグ

movie / 04

セクレタリー / 主演マギー・ギレンホール / ジェームズ・スペイダー / 監督スティーヴン・シャインバーグ

 SMは心療内科やセラピーに似ている。  プレイを通して意識の奥底に溜まったものを吐き出し、「向こう側」へ行くことで心と身体が浄化され、私たちは再び「こちら側」で日々の生活を送る。  時にはそれまで知らなかった自分を見い出すことさえあり、それはまた新たな喜びとなって心の糧を生み出す。ただしそれは、真に全てを解放できる理想的なパートナーがいなければ、叶わないことだろう。  本作の主人公リー(マギー・ギレンホール)は、その理想のパートナーに巡り会えた幸運な女性だ。グレイ(ジェームズ・スペイダー)との主従関係を通して自傷癖を克服し、同時に女として強く美しく成長してゆく彼女の姿は、潔く、清々しい。  対して、リーに促され導かれるまで自分の性癖を受け入れられず、背を向けいじけていたグレイの姿は、半ば滑稽でもある。  女とはつくづく、変化を味方につけ順応するのが得意な動物なのだ。

アタメ 私をしばって! / 主演ヴィクトリア・アブリル / アントニオ・バンデラス / 監督ペドロ・アルモドバル

movie / 05

アタメ 私をしばって! / 主演ヴィクトリア・アブリル / アントニオ・バンデラス / 監督ペドロ・アルモドバル

 タイトルが「アタメ 私をしばって!」ハッとするタイトルなので、SMも盛りだくさんでアブノーマルな映画かと思いきや…。  元ポルノ女優マリーナが精神病院から出たばかりの男リッキーに監禁されてしまう。望まざる生活を通して、なぜか愛が芽生えていくという、奇妙な物語です。  当初期待していた「SM」とは、かなりかけ離れているのですが、楽しく見られる陽気な映画です。マリーナがおもちゃで遊ぶバスタブのシーンなども、今見てもかなり笑えます。  ちょうど最新作が公開されるとのことなので、色彩の華やかさが私のツボにはまっている、スペインの映画監督、ペドロ・アルモドバルの作品をご紹介しました。  これからもスタッフと女性達で不定期にSMに関連した、書籍、映画などを紹介する予定です。たまに覗いてみて下さい。 by Sakurai